序:暮しと染色
1.物と心

・美しく、和やかな生活
生活を美しく和やかなものにするには、物の面と心の面の両方から見ていく必要があります。人の気持ちは、美しいものを見ているとそのようになっていくものなので、生活に美しいものを採り入れていくことは、生活そのものを美しくします。

・美しい物
美しい物とは、値段の高いという意味ではなく、民衆の誰もが買える工芸品などのように、実用的で、使ってみて具合のよいもので、見た目の美しい物のことです。本絹でなくてレーヨンでよくて、錦でなくて木綿でよいのです。

・物の美しさの条件
物の美しさには三つの条件があり、それは形と色と材質です。これが揃って美しく適当でないと、物は美しいとは言えません。ここに一枚の着物があるとすると、その形、色、素材が、その用途に適当であるのかと言うことで、労働服に金紗縮緬、イブニング・ドレスに麻織物では始末が悪いのです。ですから、物の美しさは、この三つの条件がよく揃っているところに生まれて来るのです。
以上、物の美しさのことを記しました。この中の色合いの問題が染色と関連して、生活に美しさをとり入れるための一つの大きな供給源となります。

参照:「日本の草木染」上村六郎(著)

