本染のイマージュ

・植物のかすかな声を聴く
自然染色の目的は、私たちの生活を、正しくそして美しくすることにあります。なかでも厚生のための染色は、競争心に陥らないように心掛けることで、創造的な次元で取り組むことを可能にしてくれます。それには、染める色や染める材料である染料において、一つの制限が必要になります。これは、厚生のための染色の第一の特徴です。

次に、染料の製造のためにも、一つの設備も必要としないようなものを選ぶことが大切です。更に、染料の製造のために、一人の人員をも必要としないことが理想です。また、染料も媒染剤も共に容易に、しかも無限に得られるものが望まれます。そして、その染色の色は、美しく、そして丈夫で、心を引き締めてくれるような色であり、その裂 (きれ) は、どこまでも実用的なものでなければなりません。

そのような理想的な染料や染色法が果たしてあるのでしょうか。実際にそれは平時ばかりでなく、非常時においても、理想的なもので、しかも、手近に私たちを待っています。そしてそれは確かに、天然染料と自然反応だけによる、各自の手染め染色のことなのです。

ここで第一の特徴の説明として、まずは染める色について、あまり目立ちやすい色、浮き浮きした色、弱い色とかは、この際すべて捨ててしまわなければなりません。次に染める材料の天然染料についてですが、それは昔の人が用いた、あらゆる草根木皮のことではありません。それらはみんな、もちろん良い材料なのですが、なかにはその採れる量に限界があり、すべての人が十分に用いることが容易ではありません。

そこで日本で昔からある染料とその染色の研究と実験を経たうえで、厚生のための染色に用いる天然染料には、草や木の落葉や、または不要の小枝が、一番理想的であるという結論のもとに、天然に無限にある廃物の中から、それに相応しい植物染料が、慎重に選び出されています。

参照:「戦時の本染」「野草の染色」上村六郎 (1894-1991)

